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東京高等裁判所 昭和42年(ラ)439号 決定 1967年8月14日

抗告人

柏原正雄

外四名

右五名代理人

吉永多賀誠

相手方

三光ディーゼル工業株式会社

右代表者代表取締役

職務代行者

松田弘俊

主文

原決定中抗告人らの申請を却下した部分を取消す。

抗告人らが別紙会議の目的事項について相手方会社の株主総会を招集することを許可する。

理由

本件抗告の趣旨は主文第一、二項同旨の裁判を求めると言うのであり、その抗告理由は別紙抗告の理由のとおりである。

当裁判所の判断

疏甲第一、第五号(証仮処分決定商業登記謄本)、東京高等裁判所昭和三八年(ネ)第三、一五五号、同四〇年(ネ)第一、四一〇号判決、同庁昭和四〇年(ウ)第三二六号判決によると、抗告人柏原正雄、本間弘は各二〇〇株、増田清子、増田正男は各一〇〇株、増田勝治は八〇〇株の相手方会社の六月前から引続き株主であること、相手方会社の発行済株式総数は現在一応六、〇〇〇株であるが、うち四、〇〇〇株については、仮処分決定により株主権の行使を制限されているので、現在二、〇〇〇株であること、したがつて抗告人らの株式総数は合計一、四〇〇株でこれは相手方会社の発行済株式総数二、〇〇〇株の一〇〇分の三を超える株式数であることが認められる。

疏甲第二、三号証(臨時株主総会招集請求書、配達証明)、相手方会社代表取締役職務代行者の増田勝治に対する回答書によると、抗告人らは、相手方会社代表取締役職務代行者松田弘俊に対し、昭和四二年五月二一日到達の書面で、別紙会議目的事項について、理由を付し、株主総会を招集することを請求したが、右代行者は、同年六月二六日付書面をもつて、取締役会において審議の結果、招集する必要はないとの結論に達したから招集しない旨抗告人増田勝治に回答し、抗告人らの株主総会招集の請求に対し、遅怠なく招集の手続をせず、右請求のあつた日から六週間内の日を会日とする総会招集の通知を発していないことが疏明される。

原審において却下した理由の要旨は、抗告人らが本件株主総会を招集した場合、抗告人らが希望する者が取締役に選任せられる。そして、抗告人増田勝治が、原告となり、相手方会社を被告として提起した株主総会決議不在確認ならびに発行済株式総数および発行済額面株式の数を各六、〇〇〇株、資本の額を金三〇〇万円と変更する旨の取締役会決議の不存在確認の訴は、現に右抗告人の勝訴に帰し、相手方会社が上告している。右のように、抗告人らの希望する者が取締役になると、相手方会社は右上告を取り下げるだらう。このようになることは、少数株主権の濫用として許されないから却下すると言うのである。

しかしながら、右取下げと言うことは推測に過ぎず、なんの証拠もないばかりでなく、たといそのような事態になつたとしても、東京高等裁判所昭和年三八年(ネ)第三、一五五号、同四〇年(ネ)第一、四一〇号判決によれば、抗告人増田勝治は同事件の原告として勝訴しているのであるから、真実は同抗告人の主張のとおりであるかも知れないのであれば、そのようにすることが、相手方会社のため一日も速やかに正常の状態に復するとも言い得るのであるから、必ずしも斯る事実があつても権利濫用というには当らない。

そもそも少数株主権はいわゆる共益権の一種であつて株主固有の権利として奪うべからざるものとされているのであるからその権利の行使については特段の事情がある場合のほかには無暗に権利の濫用としてこれを排斥すべきではない。特に株主総会開催に関する少数株主権は、たんに会社の最高の意思決定を株主総会に求めようとするために認められる権利であつて当該株主の個人的利益擁護のために認められるものではないから、その行使につき権利の濫用を認めうる場合はむしろ稀有であるといつて差支えない。株主がその希望する者を取締役に選任させるため株主総会開催の請求をしたとしても、株主総会の決議が株式の数によつて決せられるものである以上、その請求を不当とするいわれは全くない。かりに、その請求により開催された株主総会において選任された取締役が原審臆測のごとく上告を取り下げたとして、それはいわば株主の総意によるといえないこともなく(株主総会の多数意思で選任された取締役の所為であるから)、やむをえないものというべきである。取締役の上告取下がその職務の不当執行によるものである場合、その取締役に責任を生ずるだけである。付言するに、取締役の職務代行者は会社の常務を執行する権限を有するだけであり、少数株主の請求があるときは、ただそれだけで株主総会を開催すべく自己の恣意の判断でその請求を権利の濫用としまたは取締役会でその請求を拒否したことを理由としてその請求を排斥すべきではない(少数株主の請求による場合は取締役会の決議は不要である。)

本件少数株主による相手方会社の株主総会招集申請は理由があるから、これを認容すべきである。

よつて、原決定を取消し、主文のとおり決定する。(長谷部茂吉 鈴木信次郎 岡田辰雄)

(別紙一) 会議の目的たる事項

取締役遠藤民一同山口周吉、同原権蔵、同中沢誠一の解任および後任者選任の件

(別紙二) 抗告の理由、申請の理由≪省略≫

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